認知症の脳について
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前回の「【健康】脳って一体どういうものなんだろう」では一般の脳について”大脳新皮質”と”大脳旧皮質”で分け、それぞれ各領域ごとの機能についてみていきました。
今回は、認知症の人の脳についてどうなっているのかその内部についてみていきたいと思っています。
“一般的な老化した脳” と ”認知症の脳” では何が違うのか?
又、認知症でも種類が異なるとその違いはどうなのか?
その部分を今回は掘り下げていきたいと思います。
【目次】
脳の領域とその働き
まず最初に脳の働きについて振り返りたいと思います。
それぞれの詳細については、「【健康】脳って一体どういうものなんだろう」の記事で見返してもらえたらと思います。
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≪感覚情報がインプットされてから運動へとアウトプットされるまでの流れ≫
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①情報の入力・統合
●”後頭葉”・”側頭葉”・”頭頂葉”から感覚情報が脳に入力される
●それらの情報が”頭頂葉”で統合され、「それが何か?」「どこにあるか?」を判断する
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②思考・判断
●”頭頂葉”からの情報を受けて、”前頭葉”で「何をすべきか?」を考え判断する
●”前頭葉”は情動のコントロール・行動の抑制に関係する
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③随意運動
●”前頭葉”では指令を受けた後、目的通りに体を動かす指令を出し神経を通って筋肉へ伝えられる
脳は領域ごとに機能が異なります。
ですが、実際には分業作業をしながらも連動して働いているのです。
認知症の病態はただの老化とは違う
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上の図は”萎縮した脳”です。
図の様に脳全体が、矢印のように容積が小さくなっています。
これは、老化した脳とは違うのでしょうか?
実は違うのです。
では、実際にはどこが違うのでしょうか?
それは、脳の形が違うのです。
それを今から、確認したいと思います。
ではまずは、”若年・健常脳”から見ていきたいと思います。
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<若年・健常脳 >
●重量:1000~1500g
●密度が高く隙間がない
次は、”老化した脳”です。
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<老化した脳>
●重量:1000~1400g
●全体が萎縮しているが、大きな隙間はない
最後は、”認知症の脳”です。
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<認知症の脳>
●重量:900~1100g
●特定の部位が萎縮して隙間ができる
●アルツハイマー型では、海馬を中心とする側頭葉周辺が強く委縮している
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以上をまとめますと
老化した脳と認知症の脳は 脳の重さ と 脳の隙間 に差があるということです
では、次は各タイプ別の脳の様子について1つ1つ見ていきたいと思います。
タイプ別:アルツハイマー型認知症
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<病態>
① ●アミロイドβからなる老人斑が増える
●タウタンパク質の凝集体が神経細胞内にできる
② ●脳深部の海馬のほか、側頭葉、頭頂葉が萎縮する
③ ●記憶障害や見当識障害(日時や場所が分からなくなる)が起こる
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ポイントは、海馬周辺の萎縮が最大の特徴ということです
この部分は記憶を司る領域なので、新しいことを覚えることができなくなり、記憶や「今はいつか?」の時間の見当識から障害されていくのです
タイプ別:レビー小体型認知症
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<病態>
① ●大脳皮質全体・脳幹の神経細胞内に、毒性の強いレビー小体ができる
●後頭葉の血流が低下する
② ●幻視、記憶障害、筋肉の固縮など(パーキンソニズム)が起こる
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ポイントは、大脳皮質や脳幹にレビー小体が沈着し、後頭葉では血流が低下するということです
後頭葉は”視覚”を司る部分なので、この部分が障害されることで幻視(普段は見えないものがみえる)が出現するのです
タイプ別: 前頭側頭葉変性症
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<病態>
① ●前頭葉、側頭葉の神経細胞が減り、委縮する
●約半数に、ピック球という以上構造物が出現する
② ●人格の変化、行動異常などを発症する
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ポイントは、前頭葉・側頭葉の萎縮が著しいということです
前頭葉は、ヒトの理性や行動を司る部分なのでこの部分が障害されることで「人格の変化」「反社会的行動」が出現するのです
タイプ別: 脳血管性認知症
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<病態>
① ●ラクナ梗塞:脳深部の細い血管が詰まり、周囲の細胞が壊死する
●ビンスワンガー病:細い血管の閉塞に加え、脳内部の白質の容積が減る
●多発性認知症:大小の血管の梗塞が繰り返される
② ●脳のどの部位の血管が詰まったかで、症状・進行は異なる
●再発のたびに認知機能が悪化する
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ポイントは、ラクナ梗塞が最も多いことです
大脳皮質には障害はないので皮質症状はありません
軽度の運動障害・感覚障害のみが多く、症状がない場合もあります
終わりに
今回は、認知症の人の脳についてどうなっているのかその内部についてみていきました。
“一般的な老化した脳”と”認知症の脳”では 脳の重さと脳の隙間に差があることが確認されました。
最近物忘れが出てきて…というのは高齢者であれば誰しもが経験されることだと思います。
それを「年のせいだからしょうがないよね」と、放っておいてしまう事は適切ではありません。
記憶力が低下している⇒年のせい⇒放置する、というのは不適切です。
老化による物忘れは、体験した出来事の一部を忘れるもので、出来事そのものは憶えています。又、ヒントがあれば思い出せることが多く、忘れてしまった自覚もあります。
一方、認知症では体験自体を忘れ、その自覚もありません。
以上より、両者は異なる症状なのです。
認知症は早期発見・早期治療がとても重要です。
「あれおかしいな?」という様子がありましたら、まずはご自分のかかりつけ医にご相談するのはいかがでしょうか(^-^)
もう一つ、認知症での種類ごとの違いについてもみていきました。
脳の様子を見ていくと、種類によって脳への損傷部位や進行度は全く異なります。
今回の記事を読まれることで、普段の認知症の症状についての理解の一助になれば幸いですm(__)m
今回も長々と読んで下さりありがとうございました。
【参考・引用文献】
●ぜんぶわかる認知症の事典.河野和彦
●病気がみえるvol.7脳・神経