認知症のレジェンドが語る「認知症」とは?

先日某大型書店に行ったところたまたま書棚に並んでいるのを発見しました。
この本は、認知症のレジェンドである長谷川先生の体験記です。

その本とは
「ボクはやっと認知症のことがわかった」著:長谷川和夫(医師)、猪熊律子(読売新聞編集委員)です


この先生は、とにかく凄い方で認知症のスクリーニング検査を開発したり、痴呆を認知症に改名することや認知症治療薬の治験統括医師として携わったり、認知症ケアの在り方について色々尽力されたり多くの貢献をされています。


認知症のスクリーニング検査ですが、有名なものとしてこの「HDS-R(改訂版長谷川式簡易知能評価スケール)」と、もう一つ「MMSE(Mini-Mental State Examination)」というものがあります。どちらも、 大雑把に「認知症の疑い」 があるかないかをきめる検査として現場では多様されています。

Web検索でも、「認知症 検査」で調べるとすぐに出てきます。又、自己診断チェックとしても使えるようにその評価内容についても詳細が明らかになっています。それ位、現代では普及している検査の1つです。


認知機能障害のスクリーニングとしてはMMSEが臨床および研究において国際的にも広く用いられている。我が国ではHDS-Rも一般的に使われており、MMSEと高い相関がある。

引用元:認知症診療ガイドライン2017

臨床現場では「MMSE」の方が国際的にも広く普及しているものですが、Web検索では「HDS-R」の方が有名なような気がしました。
その理由としては、「HDS-R」が文章や図形の模写などがなく、身の回りにある物品を用意するだけであとは、質問形式で完結するというやりやすさにあると思います。


今回は、そんなとても有名なHDS-Rを開発された「認知症界の長嶋茂雄さん」と言える長谷川和夫先生の著書を紹介させていただきたいと思います。
この本の凄い所は、ご本人が認知症となりそれをカミングアウトして認知症というものに向き合った事について書かれている事です。
認知症の専門家だからからこそ分かることや感じたことは大変に興味深かったです。


【目次】



長谷川先生が一番に望まれること

やはりいちばんの望みは、認知症についての正しい知識をみなさんにももっていただくことです。何もわからないと決めつけて置き去りにしないで。本人抜きに物事を決めないで。時間がかかることを理解して、暮らしの支えになってほしい。

認知症=何もできない人・何もわからない人・何もかんじない人

ではなくて、

認知症でできることの理解や活動の幅が狭くなったり時間がかかることがでてくるけれど、時間をかければできることもあり喜怒哀楽の感情は最期まで保たれている人

なのです。


認知症を正確に理解して支える存在やその仕組みが整うことで、もっともっと当事者の生きずらさを改善していくことができるのです。



認知症の本質とは

認知症の本質は「いままでの暮らしができなくなること」だといえます。
暮らしとは、朝起きて、顔を洗って、ご飯を食べて、出かける準備をして、後片付けをして、掃除や洗濯をして……といったことです。それまで当たり前にできていたことがうまく行えなくなる。だから、認知症の本質は「暮らしの障害」「生活障害」なのです。

今まで当たり前にできていたことが、急にできなくなるということはどれほど怖く心細いことだろうか。又、自分らしさを形作っていたものが、徐々に壊れていくことはどんなに悔しいことだろうか。

ということを個人的には感じました。

であるからこそ、周囲がその人がなるべく今まで通りの暮らしやその人らしさを発揮できるように支えることがとても大事になります。


また、とても興味深かったのは

認知症は「固定されたものではない」ということです。普通のときとの連続性があります。調子のよいときもあるし、そうでないときもある。

現場でなんとなく今日は調子がよさそうだなぁとか、調子がわるそうだなぁと感じたことはありましたが、それは「体調」の変動であって「認知症」の病気の変動であるということは全く考えていませんでした。

長谷川先生の場合は、朝起きた時が一番調子が良く、段々と疲れてきて負荷がかかってくると状態が下降してくるようでした。

病状には変動があると理解しておくと、「あぁ今は調子がわるいんだな」とか「おっ今は調子がよさそうだ」とその人をより客観的に見やすくなり、そうすることで、お互いに良い距離感を計りやすかったり、必要な配慮ができるかもしれません。



その人中心のケアとは

著書の中で、その人中心のケアである「パーソン・センタード・ケア」の理念についても書かれています。

パーソン・センタード・ケアは,認知症をもつ人を一人の“人”として尊重し,その人の視点や立場に立って理解し,ケアを行おうとする認知症ケアの考え方です。

キットウッド(提唱者)は、認知症の人を良く観察し、よい状態をもたらす質の高いケアの重要性を指摘しています。
また、認知症に関しての医療の在り方について以下のように言及されています。


認知症は脳の恐ろしい病気だという疾患中心の見方を「オールドカルチャー」と呼び、もっと全人格を総合的に捉えた暮らしにかかわるもので、認知症はケアの質により大きく変わるとする見方を 「ニューカルチャー」と呼びました。そして、医学モデルに基づく従来の捉え方を見直すべきだと訴えました。

よい状態をもたらすためには?ということの答えは容易ではありません。
認知症だからといって、その人それぞれ生きてきた歴史も生活様式も環境も、そして人格も好みも全てが全く違います。

その為、その人の表面的なことだけではなく、その人の核となる「その人らしさとは?」という原点に立ち返ることがとても大事なのかもしれません。




終わりに


今回は、認知症のレジェンドが語る「認知症」とは?について書かせていただきました。
お話しの中で、一番に感じたことは認知症について正しい理解が広く進むことで、当事者がより生きやすい社会になることができるという事です。
当事者とその家族を取り巻く環境が協力的であれば、よりその人らしく生活を営みやすくなると思います。
その人らしさを発揮できる生活をサポートする。
また、その人らしさを出せる場を提供する。


ドングリマツリも、微力ながらそのお手伝いを担いたいと思っています。




☆最後に、そんな長谷川先生が来月NHKでスペシャルとして特集がありますので最後に告知をさせていただきます。

タイトル【認知症の第一人者が認知症になった】
2020年1月11日(土) 午後9時00分~9時49分

【参考文献】

●ボクはやっと認知症のことがわかった.長谷川和夫.猪熊律子.2019.KADOKAWA