立位バランスと歩行と転倒予防について
身近な家族や職場での高齢者の方で
歩いていてちょっとした段差やマットにつまづいて転びそうになったり
なにもないところでつまづきそうになってしまう様子を
お見かけすることはありませんか?
高齢者と転倒・骨折についてはこんな情報があります↓
・地域在住高齢者(65歳以上)による転倒発生率の報告をみると、およそ20〜35%の人が転倒を起こしているとしています。その内、骨折合併率はおよそ5〜10%程度とされています。
引用元:SAKAI med.お役立ち情報
つまり
65歳以上の4~5人に1人は転んだ経験があり
そのうちの10~20人に1人は骨折を伴う
怪我をしています
骨折をしてしまうと
長期間歩行ができなくなります
そうすると
寝たきりや認知症にもなりやすくなります
なので転倒を予防することが大切になります
転倒する原因は
”加齢による身体機能の低下”や
”環境”や”薬の副作用”などがあげられます
今回はその中で
身体機能低下の一因となる「バランス機能」に
焦点を当てて記事にまとめていきたいと思います
【もくじ】
バランスとは
”バランス”ってコトバは日常でも使われているけど
どういう意味なのかな?
バランス機能とは、重力下において身体重心を支持基底面内に維持あるいは支持基底面内に戻すことにより平衡を維持する能力である
引用元:歩行能力とバランス機能の関係.リハビリテーション医学
支持基底面とは、身体の床面に接している部分の外周により作られる広さ(領域)をいいます
引用元:SAKAI med.お役立ち情報
バランスとは「体の重心を体重を支えるために
必要な床面積内にとどめたり、その中に戻すこと」です
ちなみにバランス機能には2種類あります
それも、確認してみたいと思います
バランス機能には、支持基底面内の保持能力である”静的バランス機能”と、支持基底面が移動した状態における保持能力である”動的バランス機能”がある。
引用元:歩行能力とバランス機能の関係
このように静的・動的の分類のしかた
には考え方により変わります
バランスがよいとは?
体がふらふらしたり転ばずに
また動作が安定しておこなわれている状態です
ちなみに
支持基底面が広く重心が低いほど
安定性が高くなります
次はバランスを「安定させる」ために
働いている機能についてみていきます
バランスを構成するもの
大きく分けると3つに分類されます
次からはそれぞれについて詳しくみていきたいと思います
<骨・関節・筋肉>
バランスの基本は 体をまっすぐに維持すること です
骨・関節・筋肉に障害があると体を
まっすぐに維持することが難しくなります
また
体をまっすぐに維持するために体の各部位の力
のはいり具合にアンバランスさが生じます
その結果
状況に応じた安定性が低下することになります
<感覚機能>
姿勢を保持しているときに
その状況を正しく情報として受け取り
それを脳へ送る必要があります
その時に
ひとは
●目から
●耳の中の前庭器官から
●床についている足裏と下肢を中心とした全身からの感覚から
感覚をとり入れています
【視覚の役割】
引用元:PT・OTのための運動学テキスト,バランスの評価
・感覚情報の80%は視覚といわれている。姿勢制御も強く視覚情報に頼っている
・視覚は、特に支持基底面が不安定な時に重要な役割を果たす
【前庭器官の役割】
引用元:姿勢と歩行,バランスの評価
・前庭感覚は、重力や加速度(頭部位置の変化情報)を検知して、身体の位置や動きの情報を提供する
・前庭系からの情報は、身体の定位に関する情報の重要な源である
【体性感覚の役割】
引用元:姿勢と歩行,バランスの評価
・支持基底面における身体の位置や動き、そして全身の協調関係についての情報を提供する
・我々の立位姿勢では、主な感覚入力は床面と接している足底部の体性感覚である
これらの感覚情報の貢献度は
立位姿勢でもその状況に応じて変化させています
たとえば
暗闇では目からの感覚は少なくその分
体性感覚や前庭感覚の貢献が大きくなります
また
足元が柔らかい床の上では足の周りの体性感覚が少なくなり
その分目や前庭感覚の貢献が大きくなります
このように場面に応じて感覚の重みづけを調整することで
さまざまに変化する環境の中でも
柔軟に姿勢を維持することがしやすくなっています
<脳~脊髄>
「骨・関節・筋肉」と「感覚機能」からきた情報が
脊髄を通って脳へはいります
それを全てまとめて
フィードバックやフィードフォワードをして
脳~脊髄で自動的にバランスを調整しています
・歩行と姿勢を制御する基本的な神経機構は脳幹と脊髄に存在する
引用元:大脳皮質・脳幹-脊髄による姿勢と歩行の制御機構
・適応的な歩行運動には、脳幹-脊髄の姿勢-歩行統合機構のみならず、大脳皮質における高次脳機能が重要な役割を担う
バランス機能を構成する3つの要素
についてここまでみていきました
このように
バランスは大まかに3つの要素が
お互いに関係しあって
システムとしてコントロールされています
高齢者のバランスや歩行での特徴
高齢者のバランスや歩行について
その特徴をみていきます
【高齢者の特徴】
引用元:高齢者の広報歩行の特徴およびバランス能力との関連性,姿勢と歩行,バランスの評価
・高齢者では歩行能力、静的・動的バランス機能は劣ると判断される
・高齢者は、胸腰部後弯や骨盤後傾により、重心線は後方にシフトすることから、後方への転倒が増すことが知られている
・高齢者は視環境の急激な変化に対して大きな姿勢動揺を示すことがわかる
・高齢者の特性は、二次課題である認知課題の成績に顕著に表れる場合が多い
・高齢者はデュアルタスク条件下において立位バランスを維持することを最優先していることがわかる
とある実験によると歩行中に質問をしたときに
立ち止まって答える人は転びやすいという結果もあります
歩きながら質問にも答えるという二重課題で止まらなければ
いけない人というのは、歩くことにふだんとても注意を向けて
歩いている人ということですね
そうです。あくまで1つの予測ができるということですが、
転倒危険性を評価するための1つの指標として使いやすいテストです
なるほど!一緒に利用者さんと歩いている時に
質問をしてみてどうなるか早速試してみたいと思います
立位バランスと歩行能力の関係性
バランスの検査の中に
「直立検査」というものがあります
直立検査は上肢の支持の有無や支持基底面の面積によって難易度を序列化し、バランス能力の評価尺度として用いることができる
引用元:理学療法リスク管理マニュアル
立っている時に
どこかにつかまりながらバランス劣る必要があるかどうか
また、床についている足の接地面積の広さで判定します
「直立検査(静的バランス検査)と歩行能力との関連」については
下の表を参考にしてみてください
上の「立位保持能力」について分かりにくい姿勢
については下の図で確認してみてください
姿勢は右側へいくほど支持基底面がせまくなり難易度が高くなります
●20秒間開脚立位が可能 → なにかにつかまっていれば歩ける可能性がある
●20秒間ステップ立位・タンデム立位が可能 → 家の中でつかまらずに見守り~50m歩行が可能がある
●20秒間片足立ちが可能 → 屋外での歩行が自立の可能性がある
【バランス検査と歩行との関連について】
引用元:理学療法リスク管理マニュアル,”臨床思考”が身につく運動療法Q&A.運動療法エビデンスレビュー
・歩行との関連については、タンデム立位での20秒程度の立位保持や、閉眼閉脚での30秒間の立位保持能力が屋内歩行の目安になる
・高齢患者において歩行自立のための片脚立位時間のカットオフ値は3.2秒であったと報告されている
・60歳以上の地域在住者を対象とした場合、開眼片脚立位時間が5秒未満の者はそれ以上のものと比較して3年以内の重篤(医療処置が必要)な
転倒のリスクが2.13倍高い
・300m歩行自立の片脚立位保持時間のカットオフ値は20秒とされています
歩行は片足へ体重をかけて「重心」を移動させることで
はじめて逆側の足が一歩前へ出て「支持基底面」が新しくなります
つまり
歩行とは常にバランスを崩す→回復する→…の繰り返しになります
なので
片脚立位ができるということは片足へ完全に体重移動ができる
ということで一番難易度が高い立位姿勢になります
今回の表を参考に
静的バランス検査からその方の歩行レベルの
参考になればと思います
バランスの検査には
今回の検査以外にも他にいろいろありますので
そちらについてはまた成書をご参照ください
転倒予防に関するアプローチ
アプローチについては
「環境」と「からだづくり」
について考えていきたいと思います
<環境へのアプローチ>
高齢者の転倒の発生理由については
・慢性期片麻痺患者における屋外歩行中では、「つまづいた、ひっかかった」が最も多く64%である
引用元:理学療法リスク管理マニュアル
・在宅高齢者における転倒の理由では「つまづいた」が40%、「滑った」が30%である
高齢になると片足への体重移動が難しくなり
足を大きく踏み出したり、持ち上げることが難しくなります
そのため
足を床にすって歩いたりちょこちょこ歩きになる場合があり
ちょっとした物や段差につまづいたり滑ったりしやすくなります
まず第一に
今の生活の中での動線上につまづきやひっかかりや
滑るような場所はないかの環境の確認して対応することは大事ですね
また
【ライトタッチ】
引用元:理学療法リスク管理マニュアル
・立位時に、手の指先で何かに軽く触れるだけで、姿勢動揺量が減少することがわかっている
家の中で移動する動線上に軽く触れるように家具の配置をかえたり
手すりを設置するのも転倒予防にもつながります
そして
歩くときに介助する時に介護者の腕につかまって歩いてもらうことも有効です
理由としては
力学的な支持だけでなく触ることで生み出される
体性感覚情報がバランス維持に貢献するからです
<からだづくり>
・特に体幹機能のトレーニングは、バランストレーニングの基礎として重要です
引用元:”臨床思考”が身につく運動療法Q&A,姿勢と歩行,バランスの評価
・高齢者のバランス能力の改善に関するConhrane Reviewでは、歩行・バランス運動・協調性運動・機能的課題、筋力増強運動、太極拳・機構・
ダンス・ヨガなどの三次元的運動、多面的運動が、バランスの改善に、中等度の効果があることが示されています
・種種のボディーワーク、あるいは太極拳・ヨガなどの身体活動では、比較的ゆっくりとした動きを実施しながら、その動きを正確にモニターすることに力点が置かれている。その結果、例えば太極拳を長年にわたって実施している人は、そうでない人に比べて足関節の屈曲に対する感受性が高くなり、さらにバランス能力も向上するといった報告がある
運動としては
体幹機能を鍛えることで体の軸を安定させやすくなります
そして
ゆっくりとした運動のなかで自分の体の動きを認識しながら
丁寧に動くこともバランス能力の向上に有効なようです
また
バランス練習の具体的な内容もご紹介します
●立位保持練習→●重心移動練習→●ステップ動作→●いろいろな歩行
基本的には徐々にレベルを上げておこなっていくとよいかもしれません
下にそれぞれの簡単な方法についての説明をイラストつきでのせておきます↓
秒数と回数については
●立位保持練習の秒数:10秒間から徐々に延長し最大30秒まで
●回数:10回を1~2セット
を目安にしてみてください
また
このようなデータもあります↓
・高齢者の転倒を予防するためには、運動機能に加え、下肢の体性感覚機能を保持するための工夫も必要である
引用元:理学療法リスク管理マニュアル
・例えば、床面に突起物をつくることや、いわゆる健康サンダルを履くことで、足底の機械的受容器に対する刺激を増強させると、姿勢動揺量が減少するという報告がある
日常での活用方法としては
青竹踏みやツボ押し、健康サンダルを活用することで
足の裏の感覚が鍛えられその結果バランス能力も鍛えられます
ここまでご自宅などでの活用方法やトレーニングの方法
についてご紹介しました
ちなみに
バランストレーニング開始の目安は
「平行棒内で20秒程度の立位保持ができてから」とも言われています
それにみたない方の場合にはストレッチや筋力トレーニングなど
その他の取り組みをまずは行ってみてください
おわりに
今回の記事では
バランスとはどういうものなのか
高齢者におけるその特徴について
アプローチについて
などをまとめさせていただきました
バランス機能とは
「骨・関節・筋肉」・「感覚機能」・「脳~脊髄」
などの複数の要素が相互に関係してシステムとして機能しています
高齢者は加齢によりそれらの機能が
全般的に徐々に低下をしていきます
バランス機能の低下が転倒の一因にもなっております
そのため加齢と共に転倒リスクは高くなります
すぐできる対策としては「生活動線に配慮する」という
環境へのアプローチです
まず普段移動されるところの点検
から始めてみるのはいかがでしょうか?
また
バランス能力と歩行能力には関連があります
そのため
バランス機能をトレーニングすることで
歩行能力の改善にもつなげることができます!!
まずは
「立位バランスと歩行能力の関係性」の表を参考に
対象者の方のバランス能力と歩行レベルを確認してみてください
そして
現在の状況にあわせて「からだづくり」にも少しずつ
取り組んでみてはいかがでしょうか?
「環境へのアプローチ」や「からだづくり」をすることで
活動性の向上や転倒予防になります
そうすることで寝たきりを予防することができ
結果として認知症予防にもつながることができます
今回も長々と読んで下さりありがとうございましたm(__)m
【参考・引用文献】
●PT・OTのための運動学テキスト.小柳他共著.金原出版株式会社
●姿勢と歩行.樋口共著.三輪出版
●理学療法リスク管理マニュアル.聖マリアンナ医科大学リハビリテーション部.三輪書店
●”臨床思考”が身につく運動療法Q&A.高橋哲也編.医学書院
●運動療法エビデンスレビュー.松永篤彦編.文光堂
●歩行能力とバランス機能の関係.猪飼哲夫他.リハビリテーション医学.2006.43
●バランスの評価.西森隆.関西理学2003.3
●大脳皮質・脳幹-脊髄による姿勢と歩行の制御機構.高草木薫.脊髄外科VOL27.No3.2013
●高齢者の広報歩行の特徴およびバランス能力との関連性.美和香葉子共著.理学療法科学.22.2007
●SAKAI med.お役立ち情報